お彼岸の み教え

もう間もなくすると、秋のお彼岸がやってきます。今年のお彼岸は九月二十二日を中日とし九月十九日~九月二十五日迄です。

さて、お彼岸とは何であるかご存知ですか。悩み・欲望・迷い等の苦しみの多い世界を「此岸(しがん)」といいます。一方でこのような苦しみのない、心穏やかな世界(=悟り)を彼岸といいます。普段の私たちもそのようなことを願うことが多いと思いますが、ついつい自分中心の希望になってしまいがちです。でも、仏の世界では私たちは誰一人として自分一人で生きていける人はいないといわれています。他者との関わりであったり、食物の恵みであったり、自然界からのおかげをもって生きていけるのです。そのことに思いを致すことが大切なことではないでしょうか。

実際にこの社会の中で如何に生きてくべきか、どんなことに気を付けて生活するか。そのお示しがお彼岸の教えです。お釈迦さまは迷いの此の岸から悟りの彼の岸にどうように渡るか具体的に六つの方法で示されています。これを六波羅蜜(ろくはらみつ)といいます。

①布施(ふせ)

物でも心でも喜んで与えること。

②持戒(じかい)

正しい生活の規則を守っていくこと。

③忍辱(にんにく)

苦しいこと悲しい状況にあっても好転するときがあるとを信じ、耐え忍ぶこと。怒りの心を鎮め、苦しみに打ち克ってはじめて喜びと安心が得られます。

④精進(しょうじん)

善を行い、悪を断つ努力を継続して行うこと。無常のこの世を正しく、まっすぐに一日一日を大切に生きていく。

⑤禅定(ぜんじょう)

心を静かに落ち着けて心が散ったり乱れたりするのを防ぐこと。心を落ち着かせて一つのことに集中していくことが大切です。(坐禅や写経も禅定にあたります。)

⑥智慧(ちえ=般若(はんにゃ)ともいう)

釈尊の教えを学び実践すること。それにより物事をありのままに正しく見て真実を深く見極めることができる。

以上が六波羅蜜であります。この六つはそれぞれがバラバラに存在するのではなく、全てが共通しています。一つを実践すれば、他の五つも実践されているのです。一つが全て、全てが一つです。

この教えの根底には、他者の幸せを願う行いは、そのまま自分の幸せへと繋がっていくということがあります。道元禅師は「利行は一法なり」と表現されています。人の為に尽くす行いのご利益は必ず自分にも還ってくる。他者へ尽くす行為は「自分には何ひとつ利は無い」と思ってしまいがちですが、決してそうではない。必ず自分にも功徳が廻ってくると示されています。

フランスの思想家ジャック・アタリ氏はNHKの番組の中で「コロナ禍にあって他者に感染させないために行う自分の行動が感染抑止に繋がる。そうすれば、感染が収まっていく。それは自分にも恩恵がある」旨を発言していました。

この発言から私は自分中心に物事を考えると結局は自分自身が苦しんでしまうと感じました。またどのような思想・哲学・宗教であれ他者の幸せを願う行い(利他:りた)は共通しているのだとも感じました。

お彼岸の時期に私も日常の自分を顧みてこの六波羅蜜を実践していきたいと思います。彼岸という世界は手に届かないとこにあるのではない。日常の中で思いやりや慈しみを持つ、そして自分を見つめ調える。その実践の中にこそ彼岸があるのです。